確定拠出年金の中では、あえて分散投資しない?
これまで3回にわたり、インフレと資産運用について考えてきました。
最終回は、確定拠出年金の運用商品を実際にどのように選べばよいのかについて考えてみましょう。
資産運用の基本は、昔から「長期・積立・分散」と言われています。この考え方は2026年になっても変わりません。
ところが、確定拠出年金について考えると、少し違った見方もできます。
それが、「確定拠出年金の中だけで分散投資を考えない」という考え方です。
「長期」と「積立」はDCの仕組みそのもの
まず、「長期」です。確定拠出年金は、老後の資産形成を目的とした制度です。
20代、30代から加入すれば、20年、30年という長期間にわたって運用することになります。
株式型投資信託は短期的には大きく値上がりしたり、値下がりしたりします。
しかし、長い時間をかけて運用することで、一時的な市場変動に左右されにくい資産形成が期待できます。
次に、「積立」です。
確定拠出年金では、原則として毎月一定額を拠出して運用商品を購入します。
価格が高いときには少ない口数を、価格が安いときには多くの口数を購入することになります。
したがって、加入者が特別に意識しなくても、確定拠出年金には「長期」と「積立」という資産形成の基本が最初から組み込まれているのです。
では「分散」はどう考える?
問題は「分散」です。
例えば、DCの商品ラインナップに、国内株式、外国株式、国内債券、外国債券、REIT(不動産投資信託)、定期預金などがあれば、「全部に少しずつ分散した方が安全なのでは?」と考えるかもしれません。
もちろん、それも一つの考え方です。
しかし、ここで考えていただきたいことがあります。皆さんの資産は、確定拠出年金だけでしょうか?
DCだけでなく「自分の資産全体」を見る
例えば、50歳の会社員が次のような資産を持っていたとします。
預貯金 1,000万円
自宅などの不動産 3,000万円
企業型DC 500万円
この方が、DCの500万円についても「安全性を重視しよう」と考え、半分を定期預金、残りを株式や債券に分散したらどうでしょう。
確かにDCの500万円だけを見れば、分散されているように見えます。
しかし、資産全体を見ると、すでに預貯金を1,000万円持ち、不動産も3,000万円持っています。
つまり、DCまで預金や不動産などへ細かく分散する必要があるのか、という考え方もできるのです。
「DCの中で分散」から「資産全体で分散」へ
大切なのは、「どの運用商品を何%ずつ買うか」から考え始めないことです。
まず、「自分はどのような資産を持っているのか」を確認します。
預貯金はいくらあるのか。自宅などの不動産はあるのか。NISAでは何を保有しているのか。そして、確定拠出年金はいくらあるのか。
これらを全部合わせて、自分の資産全体のバランスを考えるのです。
そうすると、「預貯金は十分持っているので、長期間使わないDCでは株式型投資信託を中心に運用しよう」という選択肢も出てきます。
逆に、退職が近く、預貯金も少ないのであれば、DCの中で値動きの小さい資産を増やすという考え方もあるでしょう。
年齢、収入、保有資産、家族構成などによって答えは変わります。
日本人が気をつけたい「ホームカントリーバイアス」
もう一つ、2023年のコラムでも取り上げたのが、「ホームカントリーバイアス」です。
自分が暮らしている国の資産を必要以上に多く保有してしまう傾向のことです。
私たちは日本で生活し、給与を円で受け取り、預貯金も円、自宅も日本にあるという方が多いでしょう。
つまり、生活そのものがすでに「日本」に大きく偏っています。
一方、日常生活を見渡せば、スマートフォン、パソコン、インターネット通販、SNSなど、世界中の企業の商品やサービスを利用しています。
確定拠出年金という長期資産だからこそ、日本だけを見るのではなく、世界の企業の成長を取り込むという視点も大切です。
「分散しない」のではなく「分散する場所を考える」
今回のタイトルは、「確定拠出年金の中では、あえて分散投資しない?」としました。
しかし、分散投資そのものを否定しているわけではありません。
むしろ大切なのは、「DCだけで分散するのではなく、自分の資産全体で分散を考える」ということです。
預貯金、NISA、不動産、保険、そして確定拠出年金。
それぞれに違った役割を持たせることも、資産形成の一つの方法です。
確定拠出年金は、老後まで長期間運用できる大切な資産です。
「元本が減らない商品だから安心」「なんとなくバランス型」という選び方ではなく、「自分の資産全体の中で、このDCにはどのような役割を持たせるのか」という視点から運用商品を選んでみてはいかがでしょうか。
4回にわたり、「かしこい運用商品の選び方」をお伝えしてきました。
インフレの時代には、資産運用には値下がりするリスクだけでなく、何もしないことでお金の実質的な価値が下がるリスクもあります。
ぜひ一度、ご自身のDCだけでなく、資産全体を確認してみてください。
そこから、本当の意味での「分散投資」が始まるのではないでしょうか。